チョコレートに含まれるテオブロミンは認知機能を向上させるってウソ?ホント?

アカシアの樹QAシリーズ~健康に関する「ウワサの真相」~

11回 カカオ、テオブロミンの健康に関するウワサの真相

以前の記事の中で、カカオにはテオブロミンというカフェインに似た成分が含まれます。覚醒効果や心血管機能の向上による血流改善の効果などが期待されています。しかし、現時点ではその効果をヒト臨床試験などでサポートする情報は少ないように思えます。と紹介しました。

一方でテオブロミンは、カカオに含まれる最も魅力的な分子の1つとして注目されるべきと論じており今後注目の成分でもあります。(1)

 今回はテオブロミンについてヒト臨床やシステマティックレビューではないが、興味深い最新の研究について紹介したいと思います。

チョコレートに含まれるテオブロミンは認知機能を向上させるってウソ?ホント?

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→ホント(信頼性★★☆☆☆):チョコレートを用いた実験ではヒトを対象に認知機能を向上させるという報告があります。しかし、テオブロミンが認知機能に関わるという研究についてはヒト試験での証明はされていないようです。ヒトではなくマウスを使った実験では、テオブロミンが認知機能を向上させたという研究があります。

これらの情報を統合し、チョコレートに含まれるテオブロミンは認知機能を向上させるかについてはホント、ただ信頼性を★2つとしました。

1. チョコレートと認知機能についての研究

まずはチョコレートが認知機能に関わる効果があるのかについて調べた研究を紹介します。こちらはヒトを対象とした研究(ヒト介入試験)が報告されいます。

ヒトを対象としたダークチョコレートによる認知機能向上効果では若年健常人(平均年齢22±3歳、男性13名、女性5名)を無作為に、ダークチョコレート摂取群(24.0 g/日)とホワイトチョコレート摂取群(24.5 g/日)の2群に分け、それぞれ30日間の摂取とする試験を実施しました。(2)

結果を評価するための認知機能テストは連続30日間摂取の介入前(試験開始前)(Pre)、試験終了時(Post)、そして試験終了から3週間経過した時点(FU: follow-up)の計3回実施しました。

 

このヒト介入試験の結果から、ダークチョコレートの継続的な摂取は、脳の活性化に関与する神経成長因子(NGF)を増加させる。そして認知機能も向上することが示唆されました。

しかし、この試験ではダークチョコレートのどの成分が関与しているのかは特定されていません。ダークチョコレートとホワイトチョコレートの違いにはテオブロミン以外にもポリフェノール、カフェインなどが影響している可能性があるからです。

2. テオブロミンの効果を検証したマウス実験

テオブロミンの効果を検証するためにマウスを用いた実験について紹介します。

この実験ではマウスに0.05%のテオブロミンを含むエサと含まないエサを30日間与え学習機能の実験を行いました。

マウスの学習能力はオペラント行動実験という方法で評価しました。この実験方法は「特定のレバー(ボタン)を押すと餌がもらえる」行動を学習させ、成功率「(餌をもらえた回数)÷(レバーを押した回数)×100」を算出します。

その結果、テオブロミンを与えたマウスでは早くかつ正確に学習することが示された。このことは、テオブロミン摂取がマウスの運動学習のさまざまな要素(順序学習、スキル学習、適応)において有効に働くことを示しています。(3)

このように、チョコレートに含まれるテオブロミンには認知や学習機能の向上につながる可能性があります。また、最近の研究からテオブロミンとカフェインとの作用機序の違いや神経細胞におけるテオブロミンやカフェインとの相乗効果についても研究が進められています。(4)

3. まとめ

チョコレートを用いた実験では、ヒトを対象に脳の活性化に関与する因子を増加するという研究結果や認知機能を向上させるという報告があります。しかし、チョコレートのどの成分が関与しているのかは特定されておらず、ヒトを対象とした研究では直接テオブロミンが認知機能に関わるという結果は今のところないようです。一方、ヒトではなくマウスを使った実験ではテオブロミンが認知機能を向上させたという研究があります。

【コラム】カカオの産地ではチョコレートは作れない?? -最新のチョコレート生産に挑む-

カカオの特殊な生育環境

カカオの栽培に適する条件は、年間を通した高温高湿の気候と湿った土壌、しかも排水の良い土壌とされています。一方で強い直射日光を嫌うので、背の高い樹と混植して、大きな日陰を作る木(シェイド・ツリー)の下で育てます。カカオ農園の内部にカカオの木を中心としたジャングルを作り栽培します。

 カカオの生産地ではチョコレートが作れない理由

上記のようにカカオの生産地は熱帯雨林地方でなくてはなりません。一方、カカオ豆の生産地(高温高湿の熱帯)では「食べるチョコレート」を作ることはできません。これはカカオ豆に含まれる油脂(カカオバター)の融点がとても低いこと(32-36度くらい)に起因します。

 

カカオバターはカカオ豆が発芽するための栄養源であり、溶けていないと植物として発芽できません。しかし、固形のチョコレートを作る場合は、カカオバターを固める必要があります。そのため熱帯地域でのチョコレートの生産は気候的に向いていないのです。

 スイス発 研究室製「培養」チョコレート

通常、チョコレートは気温の高い地域でカカオ豆を栽培し、気温の低い地域でチョコレートを生産します。しかし、全く別のアプローチでチョコレートを作ろうとしている研究チームがあります。スイス発研究室製「培養」チョコレート

スイスの研究チームはカカオ豆の細胞をタンクで培養し、チョコレートを作る技術を開発しています。この技術はカカオ豆から無菌的に培養細胞(カルス)を作ります。この細胞をワインを作るようなタンクで増やしチョコレート生産に使います。

この技術のポイントとしては細胞培養で無限に新しいチョコレートを作り出せる点。また、水で抽出が可能で、通常のチョコレートよりはるかに強い香りを実現できるそうです。今後、従来のカカオ栽培に取って代わる技術革新となるかもしれませんね。

1. Martínez-Pinilla, E., Oñatibia-Astibia, A., & Franco, R. (2015). The relevance of theobromine for the beneficial effects of cocoa consumption. Frontiers in pharmacology, 30.

2. Sumiyoshi E, Matsuzaki K, Sugimoto N, Tanabe Y, Hara T, Katakura M, Miyamoto M, Mishima S, & Shido, O. (2019). Sub-chronic consumption of dark chocolate enhances cognitive function and releases nerve growth factors: A parallel-group randomized trial. Nutrients, 11, 2800.

3. Yoneda M, Sugimoto N, Katakura M, Matsuzaki K, Tanigami H, Yachie A, Ohno-Shosaku T, & Shido O. (2017). Theobromine up-regulates cerebral brain-derived neurotrophic factor and facilitates motor learning in mice. The Journal of nutritional biochemistry39, 110-116.

4. 中尾洋一(2019)ココア主要成分テオブロミンの新たな生理作用 第24回チョコレート・ココア国際栄養シンポジウム