カカオに含まれるポリフェノールの一種テオブロミンは血管の機能を向上させるってウソ?ホント?

アカシアの樹QAシリーズ~健康に関する「ウワサの真相」~

10回 カカオの健康に関するウワサの真相

カカオに含まれるポリフェノールの一種テオブロミンは血管の機能を向上させるってウソ?ホント?

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→ウソ(信頼性★★★★★):カカオにはカフェインと構造の似たテオブロミンという成分が含まれます。テオブロミンはポリフェノールではありません。テオブロミンの血管機能への影響を調べた研究については報告があります。

1. テアフラビン?テオブロミン?紛らわしい成分名

今回は少しひっかけ問題でした。カカオにはカフェインと構造の似たテオブロミンという成分があります。一方、紅茶などに含まれるポリフェノールにテアフラビンという成分があります。

両者はまったく異なる成分です。そのため、今回のアンサーはウソになります。成分の名前ってカタカナが多くてややこしいですよね。聞きなれないと全然、頭にはいりません。

でもちょっと知っていると……カッコよくないですか??

2. カカオに含まれるテオブロミンはどんな成分?

2-1.テオブロミンの構造はカフェインによく似ている

さて今回はカカオに含まれるテオブロミンという成分の健康効果についてです。

このテオブロミンという成分は、主にカカオにしか含まれない成分です。チャなどにも含まれますがその量は多くありません。テオブロミンの構造はカフェインととても良く似ています(1)

その違いは、CH3:メチル基が1つ付くか、付かないかです。

 

そのためその効果効能もカフェインと似ています。

カフェインはアデノシン受容体というタンパク質にくっつくことで覚醒効果を発揮します(以前コーヒーの記事の中でカフェインの覚醒効果についての研究を紹介しました)。また、カフェインは血流改善の効果などが期待できます。

 2-2. メチル基が一つ少ないと性質が変わる

テオブロミンはメチル基がひとつ少ないことでその性質が変わります。

具体的にはメチル基が1つ多いカフェインは、テオブロミンより脂質やたんぱく質と結合しやすくなります。

生物の細胞は脂質(油)でできた膜で囲まれています(脂質2重膜という膜です)そのため、メチル基を一つ多くもつカフェインはテオブロミンより脂質膜を通りやすく、細胞の中に入りやすい構造をもっています。また、カフェインによる覚醒効果はアデノシン受容体というタンパク質にくっつくことで起こります。この点でも、メチル基の一つ多いカフェインはテオブロミンより効果を発揮しやすくなります。

 

つまりテオブロミンはメチル基がひとつ少ない分、カフェインよりゆっくり、弱く効果を発揮するとイメージしてください。(テオブロミンとカフェインは効果効能が異なる論文もあります(2))

3. テオブロミンのヒトの健康に関する研究

テオブロミンはカフェインに比べて効果効能の弱い成分です。またカカオ以外に多く含まれるものが少なく、人間への影響はあまり研究されていません(3)。

 ンターネット上の検索エンジンで「テオブロミン 効果」などと調べると血管機能の改善といった内容の記事がチラホラみられます。果たして信憑性はいかがなものか。

 今回論文を調査したところ現時点でカカオのテオブロミンには血管の機能を向上させると言い切れる研究は無いように思えます。

では実際に健康に関する研究を紹介していきたいと思います。

Smolders L, et. al.(2018)では、テオブロミンを1500㎎、4週間、摂取してもらい、空腹時および食後の血清コレステロール、血管の機能を向上、グルコース、インスリン量などにたいする影響を評価しました(4)。

その結果、4週間のテオブロミン摂取は、空腹時LDL-C(悪玉コレステロール)を低下させ、HDL-C(善玉コレステロール)が上昇する傾向がありました。血管の機能のマーカーに関しては空腹時および食後の血管内皮機能を改善しなかった。一方で食後の末梢動脈径を増加させた。など限定的な評価にとどまっています(4)。

 これまでにチョコレートやココアが心血管に与える影響の研究は多くあります。一方で今回紹介したようにその効果が、テオブロミンに直接由来するという証明はされていないようです。

 2019年に発表された論文にも心血管疾患に対するココアの有益性は、テオブロミンに起因するものではないと思われる(5)。とあります

 テオブロミンはカフェインより効果効能は弱いと書きました。カフェインより効果効能が弱いということはカフェインより安全と考えることができます。カフェインには過剰摂取した時の毒性についても以前の記事で書きました

Martínez-Pinilla E et. al., (2015)の論文にはテオブロミンは人間にとって安全で、カフェインよりも望ましくない作用が少ない。したがって、テオブロミンは、カカオに含まれる最も魅力的な分子の1つとして注目されるべきと論じています。このように今後さらなる研究によりカカオのテオブロミンの効果が解明されるかもしれませんね。次回、もう少しだけこの成分について掘り下げてみたいと思います。

4. まとめ

カカオにはテオブロミンというカフェインに似た成分が含まれます。覚醒効果や心血管機能の向上による血流改善の効果などが期待されています。しかし、現時点ではその効果をヒト臨床試験などでサポートする情報は少ないように思えます。

【コラム】ペットにチョコレートはNG

カカオに含まれるテオブロミンはカフェインに比べて薬理効果の弱い成分です。とお伝えしました。しかし、これはヒトが食べた時の影響です。犬や猫などのペットにとっては有毒となります。チョコレートはペットにあたえてはいけないと聞いたことがあるかもしれません。これはテオブロミンの毒性によるものです。

 犬や猫はテオブロミンを分解、排出することができないので、体内に蓄積されて毒となります。そうすると神経や心臓に異常をきたしてしまいます。この影響は犬や猫はヒトに比べて肝臓にあるテオブロミンを分解する酵素が弱いためと考えられています。血漿中のテオブロミンの分解速度を測った実験では成犬での半減期は17.5時間、ヒトでは6時間、ラットでは3時間だったそうです。このようにテオブロミンに対する感受性は動物種によって大きく異なります。

特に、犬、猫に対する影響は大きいので誤って食べないように注意しましょう。

1. Monteiro JP, Alves MG, Oliveira PF, Silva BM. (2016). Structure-Bioactivity Relationships of Methylxanthines: Trying to Make Sense of All the Promises and the Drawbacks. Molecules, 21:974.

2. Martínez-Pinilla, E., Oñatibia-Astibia, A., & Franco, R. (2015). The relevance of theobromine for the beneficial effects of cocoa consumption. Frontiers in pharmacology, 30.

 3. Fredholm, B. B., & Smit, H. J. (2011). Theobromine and the pharmacology of cocoa. Methylxanthines, 201-234.

 4. Smolders, L., Mensink, R. P., van den Driessche, J. J., Joris, P. J., & Plat, J. (2019). Theobromine consumption does not improve fasting and postprandial vascular function in overweight and obese subjects. European journal of nutrition, 58, 981-987.

 5. Smolders, L., Mensink, R. P., Boekschoten, M. V., de Ridder, R. J., & Plat, J. (2018). Theobromine does not affect postprandial lipid metabolism and duodenal gene expression, but has unfavorable effects on postprandial glucose and insulin responses in humans. Clinical Nutrition37(2), 719-727.

6. 大島誠之助, & 左向敏紀. (2012). 禁忌食 (その 2)—チョコレートとイヌ・ネコの健康. ペット栄養学会誌15(1), 36-38.