ポリフェノールの一種ポリメトキシフラボノイドは樹皮から抽出されるって、ウソ?ホント?

今年度のポリフェノール学会は3年ぶりの現地開催で行われました。シンポジウムや特別講演を合わせると口頭での講演は8演題9つの発表が行われました。また、ポスターでの発表に関しては29演題の発表が行われました。今回はその中のいくつかの演題を紹介、解説したいと思います。

今回のポリフェノール学会のシンポジウムⅡでは「ポリフェノールの構造活性相関~PMFの多様性~」と題して最近注目を集めるPMFポリメトキシフラボノイド: polymethoxylated flavonoidsについて分子レベルでの機能解析や応用面での研究成果など様々な発表がありました(1)。

「ポリフェノールの一種ポリメトキシフラボノイドは樹皮から抽出される」って、ウソ?ホント?
(質問に対するアンサーについてはアカシアの樹公式ツイッターにてアンケート形式で投票できます。コチラから。)

ウソ(信頼性★★★★☆): ポリメトキシフラボノイドは樹皮から抽出される成分ではなく主に柑橘の果皮に多く含まれています。黒ウコンや黒ショウガなどにも多く含まれています。

1. PMFポリメトキシフラボノイドとはどんな成分?

PMFポリメトキシフラボノイドって聞きなれないですよね。何か難しそうと感じた人も多いのではないでしょうか?大丈夫です。わかりやすくお伝えします。ポリフェノールは単一成分の名称ではなく複数成分の総称です。自然界には5000-8000種類のポリフェノールがあるといわれています(11月26日はポリフェノールの日ってウソ?ホント?)。このあたりのことは先日放送されたチコちゃんに叱られるでも取り上げられていました。(NHK番組「チコちゃんに叱られる」)その種類は構造の特徴からいくつかのグループに分類されます。大きな分類ではフラボノイド型か非フラボノイド型です(図1)。フラボノイドの基本構造は2つのベンゼン環が3つの炭素でつながれているC6-C3-C6構造が基本骨格です(図1)。

そのうち水酸基(OH)の代わりに、メトキシ(OCH3)基が置換されているものがポリメトキシフラボノイド(PMFs polymethoxylated flavonoids)です(図2

2. PMFsが多く含まれる植物を紹介

PMFsは柑橘の果皮に多く含まれています。研究が盛んな成分としてはシークワーサーの果皮に含まれるノビレチンです。ポンカンの皮にも含まれます。また、黒ウコンや黒ショウガなどにも多く含まれています。(1, 2)柑橘は温暖な地域で生産が盛んで瀬戸内海に面した地域でも多く作られます。本社が広島にあるアカシアの樹としても注目の成分です。PMFsの効果としては抗酸化、抗炎症抗メタボ記憶障害改善、肝機能改善など効果があり様々な大学や企業でも研究が進められています。

3. PMFは健康寿命の延伸につながる???

東京大学大学院農学生命科学研究科の永田宏次教授らは、PMFの最新の研究結果についてNatureの姉妹紙であるcommunication biologyに発表し、今回のポリフェノール学会においてもその研究内容を発表しました(3, 4)。永田教授らは、黒ウコン由来PMFが直接、長寿遺伝子由来の酵素「SIRT1(サーチュイン1)」に結合しその機能を高めるということを突き止めました。酵素(SIRT1)は基質(Ac-p53ペプチド)と結合することで機能しますが、PMFと結合した酵素(SIRT1)はより基質(Ac-p53ペプチド)と結合しやすくなっていました(基質との親和性が向上していました)。興味深いことにこの研究ではPMFSIRT1のどこに結合するのか、また、実際に結合したSIRT1の活性が増強しているかまで調べています。このSIRT1の活性を高める効果はすでにブドウ果皮や赤ワインに含まれるポリフェノールでも確認されていましたが、黒ウコン由来PMFの方が6倍効果的に活性化させることを明らかになりました。今回この研究はビトロ(試験管レベルでの試験)やヒト培養細胞での試験ですが、永田教授らは今回の結果は食による健康寿命の伸長に貢献すると期待されるとコメントしています。

また、ポスター発表では様々な柑橘類の果皮抽出物とSIRT1との関係についても調べており、その結果28種類の果皮のうち10種類はSIRT1を活性化し、一方で3種類は活性を阻害する方向に働いたことを報告しています(4, 5)。

 

4. まとめ

今回はPMFポリメトキシフラボノイドについての最新の研究をお伝えしました。黒ウコン由来PMFが直接、長寿遺伝子由来の酵素「SIRT1(サーチュイン1)」に結合しその機能を高めるという内容でしたが、すこし難しかったでしょうか?今回紹介した研究は黒ウコンやPMFを摂れば寿命が延びるという研究ではありません。しかし科学的には重要な研究であり、こうした基礎研究が積み重なることで私たちの生活はより良くなっていくものだと思います。今回の記事が少しでもみなさまのポリフェノール研究の興味につながればと存じます。

 

【コラム】長寿遺伝子SIRT1って何?ちょっと詳しく説明

長寿遺伝子由来の酵素「(サーチュイン1)」

サーチュインSIRT遺伝子は、長寿遺伝子や抗老化遺伝子とも呼ばれています。その遺伝子から作られるタンパク質の正体はヒストン脱アセチル化酵素です。生物の細胞には遺伝情報の詰まっている核という小器官があります。遺伝情報の本体はDNAと呼ばれる物質ですが、DNAはヒストンと呼ばれるタンパク質に巻き付きコンパクトに折りたたまれています。(DNAが折りたたまれたものが染色体です)

この巻き付き方を調節する働きの一つにヒストン脱アセチル化酵素が関与しています。このような遺伝子の状態を変えることで遺伝子発現を調節することをエピジェネティックな調節と呼びます。サーチュインSIRT1はエピジェネティック調節によりヒストンとDNAの結合に作用し、遺伝的な調節を行うことで寿命を延ばすと考えられています。

1. Nogata Y, Sakamoto K, Shiratsuchi H, Ishii T, Yano M, Ohta H. Flavonoid composition of fruit tissues of citrus species. Biosci Biotechnol Biochem. 2006 Jan;70(1):178-92.

2. からだサポート研究所 ポリトキシフラボノイドを含む柑橘

3. Zhang M, Lu P, Terada T, Sui M, Furuta H, Iida K, Katayama Y, Lu Y, Okamoto K, Suzuki M, Asakura T, Shimizu K, Hakuno F, Takahashi SI, Shimada N, Yang J, Ishikawa T, Tatsuzaki J, Nagata K. Quercetin 3,5,7,3′,4′-pentamethyl ether from Kaempferia parviflora directly and effectively activates human SIRT1. Commun Biol. 2021 Feb 19;4(1):209.

4. 永田宏次 ポリメトキシフラボノイドによる脱アセチル化酵素SIRT1の活性上昇の分子機構解析と構造活性相関 日本ポリフェノール学会 第15回学術集会 プログラム抄録集 p14

5. 柯融、奥田傑、加藤久則、永田宏次 柑橘類果皮中のSIRT1活性化および阻害物質の同定 日本ポリフェノール学会 第15回学術集会 プログラム抄録集 p31