ココアやチョコレートの原料となるカカオには便通改善効果があるってウソホント?

アカシアの樹QAシリーズ~健康に関する「ウワサの真相」~

第9回 カカオの健康に関するウワサの真相

前回のウワサの真相ではチョコレートの原料となるカカオについて、特にカカオポリフェノールの健康効果について書きました(以前の記事はこちら)。今回はカカオに含まれる食物繊維について着目しその効果について検証していきたいと思います。ちなみにカカオを使った食品といえばチョコレートやココアを思い浮かべるかと思います。実はどちらも同じカカオから作られる食品です。製造工程も途中までは一緒です。ココアはチョコレートの油脂を分離し、油脂を少なくしたものです。

 ココアやチョコレートの原料となるカカオには便通改善効果があるってウソホント?

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→ホント(信頼性★★★☆☆):カカオのに含まれる食物繊維カカオリグニンには、便量増加 とそれによる腸管刺激で排便を促し、便通を改善するという研究があります。

1. カカオリグニンと便通改善効果について

カカオには食物繊維の一つであるリグニンが多く含まれています。リグニンとはカカオに多く含まれる不溶性食物繊維のことです。今回はカカオリグニンと便通に着目したヒト臨床実験を紹介します。この研究では60歳までの便秘ぎみで健康な男女を対象にココア10g(リグニン含量1.5g)を2週間摂取してもらい対象群(外観、容量、色等からは区別できないココア風味飲料(リグニン含量0g))と比較しました。試験の評価項目には排便回数、排便量、便性状、便臭などを調査しました(1)。

その結果、ココアを2週間摂取した群では便通回数(2週間のうち)が9.30.7回だったのに対して対照群では8.10.6回でした。統計解析の結果、対照食品とのココア摂取群の間の差は有意であり、ココア摂取期に排便回数が増加したことが認められました。さらに、興味深いことに糞便中のアンモニア量を機器分析したところ、糞便中のアンモニアの変化量は、ココア摂取時では-0.190.05 mg/gと減少していました。この結果はカカオリグニンに便臭軽減効果もあることを示しています(1)。

カカオリグニンを多く含むカカオ外皮ファイバーを摂取した試験においても、排便回数や便量の増加が確認されています(2

しかし、排便回数では若干増えただけのようにも見えます。体感できるほどの違いか少し疑問が残ります。そこで星は3つにしました。

 

2. 知っているようで知らない食物繊維について

2-1. 食物繊維は不溶性と水溶性の2種類に分けられる

次にどうしてカカオリグニンは便通改善の効果があったのかについて解説していきます。

食物繊維は、人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分のことです。食物繊維は小腸ではほとんど吸収されず、エネルギーにはならないので栄養学的にも不要なものと考えられていました。一方で近年の研究から直接的なエネルギーではなく様々な健康効果があることが分かってきました。みなさまも何となく食物繊維は健康に良いというイメージはあるのではないでしょうか。

食物繊維には水に溶けにくい不溶性のものと水に溶けやすい水溶性のものがあります。

不溶性食物繊維の主要成分にはセルロース、ヘミセルロース、リグナンなどあります。その効果には腸内で水分を吸収し膨らむことで腸壁が刺激され、腸のぜん動運動が活性化されます。そのため大腸内の通過時間の短縮(3),便の重量と排便回数の増加(4),大腸内容物の希釈により腸内環境に影響を与えることがしられています。

不溶性食物繊維の多く含まれる食材には穀類、野菜、豆類、果実、海藻、甲殻類(エビやカニ)などがあります。

一方、水溶性の食物繊維には、難消化デキストリン、フコダイン、βグルカンなどがあります。こちらは腸内で水分を吸収するとゲル状になり有害成分を吸着し排出してくれます。また、腸内細菌とエサとなり腸内環境の改善にも役立ちます。

代表的な水溶性食物繊維を多く含む食品としては海藻、きのこ類果物、いも類、豆類、野菜などがあります。

不溶性食物繊維であるセルロース、ヘミセルロースやリグナンがあるとかきました。これらは細胞壁に由来する成分です(エビ、カニに含まれる食物繊維は細胞壁由来ではありませんが)。水溶性の食物繊維は植物細胞の内容物に由来するものが多いです。

 

2-2. 植物性の不溶性食物繊維の正体

もう少し詳しく細胞壁やリグニンについて説明したいと思います。

細胞壁は植物に特徴的な組織です。動物細胞には細胞壁は存在しません。植物は細胞壁があるおかげで植物のカラダを丈夫に保ちます。植物が動物より大きく成長できるのは細胞壁という細胞組織のおかげでもあります。また害虫やウイルスなどから物理的に防御する働きもあります。一方、動物細胞は植物細胞のような細胞壁がないためより柔軟な動きに対応できる仕組みになっています。

特に植物の種子や果実、樹木の外皮などはとても固くできています。これらを形成する細胞は頑丈な組織をつくるため特殊な細胞壁を発達させています。リグニンは樹木などの木本類の外皮に多く含まれる細胞壁の構成成分です。リグニンは木材の2~3割を占め地球上でも最も量の多い物質の1つとして知られています。近年はリグニンの工業的な価値についても注目されています

以下動画でもリグニンについて分かりやすく説明されていますので、是非参考にしてください。

 日本発 希望の新素材「改質リグニン」2018改訂版 – YouTube

さて話を栄養学に戻しましょう。リグニンは不溶性の食物繊維のなかでも酸やアルカリに強く最も大腸に届きやすい成分です。(セルロースやヘミセルロースは一部の腸内細菌には分解されます(5、6))

カカオリグニンの特徴は上記の樹木に多く含まれる木材リグニンとは少し異なります。カカオリグニンの合成にはポリフェノールが関係します。(カカオポリフェノールについてはこちら)細胞壁の構成成分であるセルロールやヘミセルロースにポリフェノールが複雑に重合した成分がカカオリグニンです(7)。そのためカカオリグニンは不溶性食物繊維の特徴とポリフェノールの特徴を合わせたような成分となっています。カカオリグニンのように胃や腸で分解されず大腸に届く不溶性食物繊維は便のかさましに効果的であると考えられます。

 

3. カカオリグニンを摂るためのおススメ食品

便通改善のために十分な量のカカオリグニンをとるには、やはりカカオ配合量の多い高カカオチョコレートやココアがおススメです。またアーモンドやピーナツなどの種子などが配合されたチョコレートなら、種子からもチョコレートからも食物繊維が摂れるのさらにおすすめです。ちなみにアーモンドチョコレートであれば30g(およそ6粒)で水溶性食物繊維0.28g、不溶性食物繊維1.6gが含まれ(7)、前途の試験の1.5 gのカカオリグニンより多くの不溶性食物繊維がとることができます。また、明治の行ったアーモンド入りチョコレートを用いた研究からも、アーモンドチョコレート摂取群の方が、8週間後の排便回数、排便日数ともに非摂取群に比べて有意に増加し、便通改善効果が確認されています。(8

  4.まとめ

カカオリグニンは不溶性の食物繊維の一種です。カカオリグニンは摂取後消化管内でほとんど分解・吸収を受けることなく腸内へ移行し、吸水・膨潤することで便量を増加させます。さらに便の増加が腸管刺激によって排便を促します。つまり、カカオリグニンは、便量増加とそれによる腸管刺激で排便を促し、便通が気になる方のおなかの調子を整えると考えられています。

【コラム】カカオの実は樹の幹から突然現れる??

チョコレートは私たちにとってとても身近な食べ物ですが、カカオの実を日常で目にすることはあまりありません。カカオの実は、幹生花(カンセイカ)といい木の幹に花をつけ、そこに実ができます。一般的な植物は新しく伸長した枝に花芽をつけます。

幹生花は熱帯では珍しいことではないみたいですが日本ではあまり見慣れない花のタイプです。しかも蘭のような独特な花ですね。

花自体は熱帯地域であれば一年中咲き続けます。1つの花の寿命はとても短く、夕方からゆっくり開花しはじめて翌朝の早朝に開花するそうです。開花後、花粉を出し始めますが、受粉ができる期間はわずか2日間。しかも受粉できる花はとても少なく、わずか1-2%程度だそうです。日本の野外でカカオを見ることはできませんが、植物園などの温室には植えられていることがあります。開花期間の短いチャンスにカカオの花を見ることができればあなたのスペシャルデーになるでしょう。気になった方はカカオの生花を見に植物園に出かけてみてはいかがでしょうか?

1. 杉山和久. (2017). カカオ由来リグニンによる便通および便臭改善の検証試験―無作為化二重盲検クロスオーバー試験―. 薬理と治療45(4), 653-662.

2. 上脇達也, 杉田大悟, 伊藤雅範, 志村進, & 水谷武夫. (1999). カカオ豆外皮エキスおよび外皮ファイバーの人の腸内菌叢に及ぼす影響. 日本食品科学工学会誌, 46(12), 771-778.

3. Hillman, L., Peters, S., Fisher, A., & Pomare, E. W. (1983). Differing effects of pectin, cellulose and lignin on stool pH, transit time and weight. British journal of nutrition50(2), 189-195.

4. Holloway WD, Tasman-Jones C, Lee SP. Digestion of certain fractions of dietary fiber in humans. Am J Clin Nutr. 1978 Jun;31(6):927-30

5. あいち産業科学技術総合センター 技術情報 平成18年度 1月号(食工技セ版)

6. Kelsay JL, Goering HK, Behall KM, Prather ES. Effect of fiber from fruits and vegetables on metabolic responses of human subjects: fiber intakes, fecal excretions, and apparent digestibilities. Am J Clin Nutr. 1981 Sep;34(9):1849-52.

7. Porter L.J et al. Phytochemistry. 1991; 38:1657-1663

8. 塩原みゆきほか.アーモンド経口摂取によるヒト皮膚への影響.Food Style 21. 2007;11(12): 98-102.