「お茶を飲むとHDL-コレステロールを低下させる」って、ウソ?ホント?

アカシアの樹Q&Aシリーズ~健康に関する「ウワサの真相」~


第2回 お茶の健康に関するウワサの真相

今回からは「お茶」の健康情報について検証していきます。私たち日本人にとってお茶(緑茶)を飲むことはまさに日常茶飯事です。では日ごろから飲んでいるお茶にはヒトの健康にどのような効果があるのでしょうか?

「お茶を飲むとHDL-コレステロールを低下させる」って、ウソ?ホント?

(質問に対するアンサーについてはアカシアの樹公式ツイッターにてアンケート形式で投票できます。コチラから。)

ウソ(信頼性★★★★☆):お茶を飲むと善玉コレステロール「HDL」ではなく、悪玉コレステロール「LDL」を低下させるという研究報告があります。

図1 HDLコレステロールとLDLコレステロールの役割

 

さて冒頭からHDLとかLDLとか小難しい言葉が出てきますが……、大丈夫ですわかりやすくお茶とコレステロールの関係を説明していきます!

コレステロールとは人間の体に存在する脂質のひとつです。血液中のコレステロールには大きくわけてLDL-コレステロールとHDL-コレステロールがあります。健康診断などの検査項目にも記載があるので、みなさまも目や耳にしたことはあるかと思います。では簡単にその役割を説明します。

LDL-コレステロールは肝臓で作られたコレステロールを全身へ運ぶ役割があります。このLDL-コレステロールは増えすぎると動脈硬化を起こします。いわゆる悪玉コレステロールです。一方HDL-コレステロールは余分なコレステロールを回収する善玉コレステロールです(図1)。

詳しいそれぞれの役割はともかく、HDLは善玉、LDLは悪玉コレステロールと覚えてください。

LDLコレステロール 140 mg/dl 以上 高コレステロール血症
120-139 mg/dl 境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40 mg/dl 未満 低HDLコレステロール血症
表1 脂質異常判断基準
動脈硬化性疾患予防ガイドラインより抜粋

 

厚生労働省ではLDL-コレステロールの正常範囲は140 mg/dl未満と定めています(表1)。140 mg/dl以上の場合は高LDL-コレステロール血症になります(1)。高LDL-コレステロールの状態が続くと動脈硬化が進み、脳梗塞、心筋梗塞など血管系の病気が起きやすくなります。そのため日々の生活の中でLDL-コレステロールを抑える必要があります。

日本においてヒトの健康とお茶の関係について調べた有名な研究に「掛川スタディ」という研究があります

2009年に始まったこの研究は30歳以上の掛川市民であればこのプロジェクトに参加することができるという話題性もあり、当時メディアなどでも大きく取り上げられました。

掛川スタディの研究の中で12週間茶エキス粉末を1.8 g/日摂取した群とプラセボ群(茶エキスを摂取していない群)の比較を行いました。その結果、緑茶エキス摂取群では6-9 mg/dl程度のLDL-コレステロール値(悪玉コレステロール)の低下がみられました。(2)

お茶の飲用によるLDL-コレステロールの低下は他の論文でも報告されています。Imaiらは、1,330 名の40 歳以上の日本人男性を対象に緑茶摂取量が一日① 3 杯以下、② 4-9 杯、③ 10 杯以上の3 群に分けると、緑茶摂取量の増加に伴い、LDL-コレステロール濃度が低下していることを報告しています(3)。また複数の研究論文をまとめたデータ解析からは緑茶飲料の摂取は摂取しない場合に比べてLDL-コレステロール値を2 mg/dl程度低下させること報告しています(4)

ではどういった成分がコレステロールを低下させているのでしょうか? 

図2 お茶に含まれるカテキン類

 

これには複数のメカニズムが関与していることが考えられますが、一つはお茶のポリフェノール成分、カテキン類がコレステロールの吸収を抑えるためと考えられます。緑茶には主なポリフェノールは8つ存在します(図2)

食事に含まれるコレステロールは前途のように脂質の一種なので水に溶けません。そのため、体内では「ミセル」(図3)という微粒子の中に取り込まれ、小腸で吸収されます(図3)。

図3 カテキン類のコレステロール吸収阻害メカニズム

 

カテキン類はこのミセル構造に働きかけコレステロールを沈殿させます (5)。ミセル構造が作れないとコレステロールは体内に吸収できません。そのため、血中のコレステロール値が低下します。特にこの作用はガレード型カテキン(図2緑枠内)の方が強く、この傾向はカテキン分子内の疎水領域に由来する性質の違いと考えられています(5)

  1. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
  2. 日本茶業中央会(企画)衛藤英男、冨田勲、榛村純一、伊勢村護、原征彦、横越英彦、山本万里、前田万里. 新版 茶の機能 ヒト試験から分かった新たな役割 農山漁村文化協会 (2013).
  3. Imai K, Nakachi K. Cross sectional study of effects of drinking green tea oncardiovascular and liver diseases. BMJ 310: 693-696. (1995)
  4. Zheng XX, Xu YL, Li SH, Liu XX, Hui R, Huang XH. Green tea intake lowers fasting serum total and LDL cholesterol in adults: a meta-analysis of 14 randomized controlled trials. Am J Clin Nutr. 94: 601-610. (2011)
  5. Ikeda I, Imasato Y, Sasaki E, Nakayama M, Nagao H, Takeo T, Yayabe F, Sugano M. Tea catechins decrease micellar solubility and intestinal absorption of cholesterol in rats. Biochim Biophys Acta. 1127:141-146. (1992).

【コラム】お茶はいつどうやって日本にきたのか

私たちの生活で最も身近な飲み物といえばお茶ではないでしょうか?お茶と日本人との歴史は古く、奈良、平安時代に遣唐使が中国から日本に持ち帰ったことがお茶の始まりとされています。しかし、当時は貴族などの上流階級の人が薬として活用しており、広く世間に広まったというわけではありませんでした。その後、お茶は鎌倉時代に入り禅の思想や哲学と融合し茶道という文化に発展していきます。千利休の活躍などは歴史の授業でも習いましたよね。そして、大衆の飲み物として広まったのは江戸時代になってからです。江戸時代以前は抹茶が主流でしたが、この頃から煎茶も飲まれるようになりました。その後、それぞれの家庭で淹(い)れられていたお茶は、缶、ペットボトルと進化していきました。分析や研究技術の発達によりお茶の効果、効能はより科学的に明確になりつつあります。しかし、古来より飲み継がれてきた歴史的な事実こそ、お茶の健康効果についての紛れもないエビデンスと言えるのかもしれませんね